●相続問題B

 Q 裸一貫でがんばって築いてきた少しばかりの財産があります。長男は共和国に帰国しており、南の故郷にも解放前に死に別れた前妻との間に娘が一人います。現在日本で暮らす2人の子たちの仲も悪く、私が死んだ後には何かと財産をめぐり争いもありえるでしょうし、手続きも複雑になると思います。そのため遺言を作成しておくつもりです。どうすればよいでしょうか?

争い避けたければ

 A 遺産をめぐる争いは「骨肉の争い」とも言われるように、親子や兄弟姉妹など血を分けた親密な関係での争いであるせいか、譲歩したり妥協したりとお互いに歩み寄るのは簡単ではないようです。家庭裁判所に提起される遺産分割調停も年々増加傾向にあるとのことです。

 相続人になる子どもたちが北南と日本にまたがっており、また争いを避けたいと考えるのであれは、遺言を作成するのがよいでしょう。

 相続の準拠法について以前にも解説したとおり、日本法例第26条「相続ハ被相続人ノ本国法ニ依ル」の規定により、被相続人が「朝鮮表示」の場合、共和国法を準拠法とし共和国対外民事関係法第45条の「反致規定」により、つまるところ日本民法によって処理されます。また被相続人が「韓国表示」の場合、韓国法が準拠法となります。しかし、遺言の場合は韓国国際私法第27条3項の「…行為地法によっても妨げない」の規定により、日本民法によっても処理できます。

 日本民法では法に定める方式以外の遺言は無効とする非常に厳格な方式を求めています。それは、遺言の内容が相続人の間に大きな利害の対立を生じるようなこともあるうえ、遺言の偽造や変造あるいは破棄などがが行われる恐れもあるからです。

3とおりの方式

 遺言の方式には、@自筆証書遺言A秘密証書遺言B公正証書遺言の3とおりがあります。

 @自筆証書遺言は、遺言者自らが遺言の内容と遺言をした日付、氏名を自筆で明記し押印して作成します。

 遺言の内容、日付、氏名、押印は、これらのうちどれを欠いても、遺言としては効力が無くなるので十分に注意が必要です。

 例えば、遺言の日付を「吉日」などとすると、有効な日付とは認められず遺言の内容すべてが無効とされてしまいます。

 また、筆記具はなんでもよいのですが、ワープロやタイプをしたものではなく、あくまで自分自身で書かなければなりません。

 遺言は後に書き直すことができますが、その場合、一番新しい遺言の内容が実行されることになります。

 いつでも思ったときに作成できる簡便な式のようですが、自分が死亡した後に誰にも発見してもらえなかったり、あるいは破棄や変造のおそれもあります。

 A秘密証書遺言は、遺言をする人が遺言の証書を作成(自筆でなくともワープロやタイプ、または代筆も可)し、署名、捺印して封印したのち、公証人と2人以上の証人の前に提出。自分の遺言書であること、そしてその筆者の氏名、住所を述べ、公証人が手続きをし、封書に日付を書き、証人及び公証人が署名、捺印して作成します。

 これは遺言の中身を誰にも知られたくなく秘密にしたいときは有効な方法ですが、やはり紛失、破棄や変造などのおそれがあり、また、公証人は内容をチェックしないので、遺言の要件がきちんとそろっていないなどで紛争になる恐れもあります。

 秘密証書遺言も@の自筆証書遺言も、相続人らが勝手に開封せず家庭裁判所で検認をしてもらわなければなりません。

 B公正証書遺言は、公証役場にて、遺言をする人が2人以上の証人の立会いのもとで、遺言の内容を公証人に伝え、公証人がそれを筆記し、日付を記して作成し、本人、証人そして公証人がそれぞれ署名、捺印して作成します。

 遺言をする人が病気であったり、公証役場に行けない場合は、公証人が自宅や病院まで出向いてくれます。作成された遺言の原本は公証役場で半永久的に保管(遺言の正本と副本は遺言者が保管)されるので、紛失や破棄などの心配がありません。

 遺言の内容に不備がないようきちんと明記し、また後々の争いを避けるためにも、費用はかかっても公正証書遺言がよいでしょう。

 (金静寅、同胞法律・生活センター事務局長)

[朝鮮新報 2005.3.22]



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●相続問題A

 Q 1世のアボジ(父)が亡くなり、相続の手続きをすることになりました。アボジは結婚前に帰化して日本国籍を取得しています。その後、オモニ(母)と出会い結婚し、私を含め3人の子をもうけました。手続きにあたり、法務局でアボジの「帰化前の戸籍謄本が必要」と言われました。なぜいるのですか? またどのように入手できますか?

遺言状で決まる

 A 設問に答える前に、まず戸籍とは何でしょうか。戸籍とは、南(「韓国」)では戸主、日本では世帯主を中心とした血縁関係者と配偶者の記録と言えます。

 戸籍には本籍および戸主(世帯主)、構成人である各人の履歴(戸主との続柄、出生、死亡、婚姻関係…等)が記載されています。

 戸籍謄本とは、行政(役所)が戸籍をコピーした公文書です。ですから戸籍謄本で続柄の欄に「子」とあれば、戸主との親子関係が公式に証明される事になります。

 次に相続をみますと、歴史的にはいろいろ変化しました。例えば、封建時代の相続は被相続人(一般に親)の地位と財産を長子が継承する「身分相続」でした。

 資本主義時代の相続は「財産相続」であり、相続人と相続分を指定した遺言状により相続が行われます。

 しかし、在日同胞社会や日本では身分相続の慣習が色濃く残っているのでしょうか、遺言をしない人が多いようです。遺言書がなければ相続人は誰なのか、相続分はどれだけなのか特定できません。

 特定できなければ、命の次に大切なものとされている(?)お金(財産)のことなので、犯罪、紛争が当然に予測されます。

第一順位は子と配偶者

 遺言がない場合の紛争、犯罪を防ぎ、相続がスムーズにできるように制定されたのが民法の相続編です。相続法による相続が「法定相続」です。

 法律による第1順位の相続人は子と配偶者です。では誰が子とか配偶者であることを証明するのでしょうか。

 一般的には戸籍謄本(公文書)による記載が相続人を決定します。南に戸籍がない在日同胞の場合、外国人登録証の記載(日本の公文書)を用いることになります。

 法定相続人の決定は、日本法でも南の法律でも同じく血縁で決定します。帰化した・しなかったということは、この場合関係ありません。

 戸籍の入手法ですが、戸籍の管理は日本でも南でも本籍地を管轄する行政機関(役所)ですので、そこに戸籍謄本の発給を申請することにより入手できます。

 アボジの帰化前の戸籍は南の本籍地で管理されていますので、具体的には本籍を管理する南の行政機関に発給を申請することにより入手できます。

 ただし、朝鮮語を知らない、南では漢字を使っていない、本籍地の地名が変更されている、記載が違っている…など、なかなか大変です。

 同胞法律・生活相談センターや同胞の行政書士の力を借りるのも一法でしょう。

 (チェ・ヒョンギル、同胞法律・生活センター相談員)

[朝鮮新報 2005.3.15]
 


 


●相続問題@

 ここ数年、一般人の生活上に起こりうるトラブルについての法律上の判断をテーマに笑いを交えてわかりやすく伝えるスタイルのTV番組が流行っています。そういえば最近では「訴えてやる」というキャッチフレーズの番組の司会者が訴えられるという、笑うに笑えない話もありました。

 それはさておき、そういった番組でも相続に係わる問題はよく採り上げられます。実際、当センターが受ける相談の中でも相続問題は最も多いジャンルのひとつとなっています。

日本の人とは違う

 当センターへの相続に関する相談が多い原因としては、現に相続を巡るトラブルが多いということもあるでしょうが、それ以外にも在日同胞の場合は相続に適用する法律が必ずしも日本の法律とはならないということ、また相続人の特定、つまり誰々が相続権を持つのかということの確認が、戸籍を調べれば簡単にはっきりする日本人のようにはいかないということが挙げられるかと思います。

 日本では外国籍者が被相続人(亡くなった人、もしくは法律上そうみなされた人)の場合は、相続についてはその人の本国の法律を適用することが「法例」という法律で定められています。在日同胞の場合、朝鮮半島の分断状態が続いていますので、この本国法がどうなるのかという問題をまず述べなければなりません。

 日本の多くの判例(裁判所の判決例)、また学界の通説は、朝鮮半島のように国が分断された状態にある場合はそのどちらの方により密接な関係を有するのかということによって、適用する法律が決まるとしています。

 なお、密接な関係についてはその人の帰属意識といった主観的要件、肉親や行き来といった客観的要件とが総合的に判断されることとなり、必ずしも外国人登録上の国籍欄の表示が「朝鮮」か「韓国」か、で単純に判断されるものではありません。

 そして、やっかいなことに本国法を共和国法とする人と韓国法とする人により、それぞれ適用する法律が異なります。

本国法との関係で

 本国法については、共和国法を本国法とする人の場合、共和国では対外民事関係法という法律により基本的に日本の民法を適用することになっています。社会主義システムに基づいた法律をそのまま適用するのは在日朝鮮人の実情に合わないことを配慮してこのようにしているわけです。

 ですから、共和国法を本国法とする人の場合は、相続人の範囲や法定相続分、つまり言葉は悪いですが法律で保障される各相続人の「取り分」は、基本的にテレビ番組や書店で売っている一般の書籍に書いてある通りと考えて良いでしょう。

 一方、韓国法を本国法とする人の場合は韓国民法がそのまま適用されます(ただし、日本にある不動産の相続登記などの手続きは日本法に則った手続きとなります)。

 韓国民法と日本民法では相続規定において相続人の範囲や相続分等においていくつかの違いがあり注意が必要です。どのような違いがあるのかについては、次回以降をお読みください。

 相続人の特定については本国の官憲の発給する証明書で確認することが基本となっていますので韓国戸籍に登録されている人は外国人登録原票記載事項証明書に加え、戸籍謄本の添付を求められます。

 一方、多くの「朝鮮」表示者のようにそういった本国での登録がなされていない人の場合でも、外国人登録原票記載事項証明書に加え、申述書や総聯の発給する相続証明書等を添付することによって手続きが可能ですのでご心配には及びません。

 ただ相続分等についてはあくまで法律でその権利が認められているということです。相続人間で遺産分割をどのようにするかについて話し合いで決まれば、誰がどれぐらい相続しようが良いわけで、合意に至らず裁判所の判断に委ねるような形になった場合はこの法定相続分を基本にして処理されるということにすぎません。相続人同士で仲良く話し合って決まればそれにこしたことはないということです。

 争いを避けるための遺言等についても次回以降をご期待ください。

 (金東鶴、同胞法律・生活センター部長)(NPO法人同胞法律・生活センター、事務局) TEL 03・5818・5424、FAX 03・5818・5429

[朝鮮新報 2005.3.8]



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